東京高等裁判所 昭和44年(ラ)499号 決定 1969年8月20日
抗告人 富士容器株式会社
右代表者代表取締役 飯田利一
抗告人 長谷川志げ
主文
本件抗告をいずれも棄却する。
理由
抗告人らは「原決定を取り消す。」との裁判を求め、その理由とするところは、「本件競売物件の価値は合計五五〇万円を下らないが、このような価値のある物件を金三八〇万一、〇〇〇円という安い価額で競落を許可されると抗告人らは多大の損失を受けるので、原決定の取り消しを求める。」というのである。
抵当権実行による不動産競売において、目的不動産の競落価額が一般の取引価額(実質的価値)に対比し一般に低額である場合の多いことは明らかなところである。したがって、右の場合を形式的にみるならば、当該任意競売手続の利害関係人は競落許可決定により損失を蒙ることになるといえないでもない。しかしながら、任意競売における利害関係人は、目的不動産が競売法所定の手続によって競落されるべきものであることは当初から予期しているところであるから、その手続が適法に進められる以上、たとえ目的不動産の競落価額が一般の取引価額より低額であったとしても、これをもって競売法三二条二項が準用する民訴法六八〇条一項にいわゆる「競落ノ許否ニ付テノ決定ニ因リ損失ヲ被ムル可キ場合」には該当しないものといわねばならない。そうすると、抗告人らの主張するように本件競売物件の価値が合計五五〇万円を下らないものであり、これを金三八〇万一、〇〇〇円という価額で競落を許可したとしても、この程度ではいまだ本件競落の許可を違法たらしめるほど著しく低廉な価額とも認められず、したがって右の一事をもって本件競落許可決定の取消を求める事由とすることはできない。
その他本件記録を調査してみても、原決定を取り消すべき何らの違法も存しない。
よって、本件抗告はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 多田貞治 裁判官 上野正秋 岡垣学)